2024年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
escape / #チリ ※現パロ
「この電車、どこまで行くんだろう」「さぁな……」
あまり使う事のないターミナル駅で適当に乗った電車。知っている駅名をいくつか過ぎた後、聞いた事もない駅名が続くほど長時間揺られていた。ただ北に向かっていることだけはわかっている。適当に乗ったはずなのに、"それらしい"と思った。
何もかもが破壊的な衝動だった。あれほどまでに頭に血が上る事があるのかと、これほどまでに自分に力があるのかと。ただ、彼女を守りたかっただけだった。自分がしたこと、彼女を巻き込んだことを後悔するにはもう遅い。ボックス席に向かい合って座らず、隣に座る彼女はうちの肩に頭を預け、指を絡ませて肩を振るわせている。
「寝ててええで」眠れるのなら、どうせ最期まで一緒だ。彼女が安心できるように身を寄せる。震えが少し収まり、彼女は目を閉じた。窓の外を見る。段々と雪景色が増えてきている。
「ほんま……最悪やな……」と独りごちて、目を閉じた。
「終点ですよ」と起こされたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
「この電車、どこまで行くんだろう」「さぁな……」
あまり使う事のないターミナル駅で適当に乗った電車。知っている駅名をいくつか過ぎた後、聞いた事もない駅名が続くほど長時間揺られていた。ただ北に向かっていることだけはわかっている。適当に乗ったはずなのに、"それらしい"と思った。
何もかもが破壊的な衝動だった。あれほどまでに頭に血が上る事があるのかと、これほどまでに自分に力があるのかと。ただ、彼女を守りたかっただけだった。自分がしたこと、彼女を巻き込んだことを後悔するにはもう遅い。ボックス席に向かい合って座らず、隣に座る彼女はうちの肩に頭を預け、指を絡ませて肩を振るわせている。
「寝ててええで」眠れるのなら、どうせ最期まで一緒だ。彼女が安心できるように身を寄せる。震えが少し収まり、彼女は目を閉じた。窓の外を見る。段々と雪景色が増えてきている。
「ほんま……最悪やな……」と独りごちて、目を閉じた。
「終点ですよ」と起こされたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
2024年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
君の匂い / #天峰秀
秀がつけている香水は、仕事仲間がもらったサンプル品だという。「好き?」と聴かれたので素直に「うん」と答えたら、そうなんだと納得した様子で会うたびにつけているらしい。それは秀の肌の、皮脂や汗と混じり合って”天峰秀の匂い”になる。16歳の、甘い匂い。だから、小瓶をもらった時はびっくりした。秀からするから、秀の匂いだから好き、と言ったら君はどういう反応をするのかな。
秀がつけている香水は、仕事仲間がもらったサンプル品だという。「好き?」と聴かれたので素直に「うん」と答えたら、そうなんだと納得した様子で会うたびにつけているらしい。それは秀の肌の、皮脂や汗と混じり合って”天峰秀の匂い”になる。16歳の、甘い匂い。だから、小瓶をもらった時はびっくりした。秀からするから、秀の匂いだから好き、と言ったら君はどういう反応をするのかな。
lihit / #花園百々人
告白をした。はっきりと、恋情とわかるものだった。ぴぃちゃんははぐらかすように「冗談もほどほどに」と笑顔を作って、一瞬だけ僕を見て、すぐに目の前の仕事に戻った。パソコンの画面には、事務所全体の今後のスケジュールが細かく書かれていた。
「どうしたら、振り向いてくれるの」
ぴぃちゃんの手が止まったのを僕は見逃さなかった。ゆっくりと、唇を開く。
「私が全てを捨てたくなったら」
僕を見ていない、その瞳がどんな色をしているのか分からない。結い上げた髪から覗く白いうなじだけが目に映る。喜べなかった。その"捨てる"には、僕が入っていることを、知っている。
窓際のぴぃちゃんの席は陽の光がよく当たる。白が反射して眩しくて、目を伏せる。僕は永遠に君という光を掴めないのだと、陽の当たらない影で思う。だけど、僕はこれだけは捨てられない。
告白をした。はっきりと、恋情とわかるものだった。ぴぃちゃんははぐらかすように「冗談もほどほどに」と笑顔を作って、一瞬だけ僕を見て、すぐに目の前の仕事に戻った。パソコンの画面には、事務所全体の今後のスケジュールが細かく書かれていた。
「どうしたら、振り向いてくれるの」
ぴぃちゃんの手が止まったのを僕は見逃さなかった。ゆっくりと、唇を開く。
「私が全てを捨てたくなったら」
僕を見ていない、その瞳がどんな色をしているのか分からない。結い上げた髪から覗く白いうなじだけが目に映る。喜べなかった。その"捨てる"には、僕が入っていることを、知っている。
窓際のぴぃちゃんの席は陽の光がよく当たる。白が反射して眩しくて、目を伏せる。僕は永遠に君という光を掴めないのだと、陽の当たらない影で思う。だけど、僕はこれだけは捨てられない。
同色 / #天峰秀
その煙草の匂いに眉を顰めていると「ごめんごめん」と言って笑いながら女は火を消した。漂っていた煙が換気扇に吸い込まれていく。未成年の前で煙草を吸う女なんてろくな大人じゃない。そうだとわかっているのに、俺の心臓は吸い殻に付着している紅と同じ色をしている。
その煙草の匂いに眉を顰めていると「ごめんごめん」と言って笑いながら女は火を消した。漂っていた煙が換気扇に吸い込まれていく。未成年の前で煙草を吸う女なんてろくな大人じゃない。そうだとわかっているのに、俺の心臓は吸い殻に付着している紅と同じ色をしている。